機械安全の法律・規格と設計手法

安全な製品を設計・製造するために必要な法律・規格の情報を紹介しています。

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4. 製造物責任(PL)法(その4)|(定義) 第二条|誤使用も考慮する製品の使用形態のひとつです。

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私は、労働災害を防ぐためには技術者は、 製造物責任を知らなければならないと考えています。法の解釈や法理論を説明するのではなく、PL訴訟のに係わるような製品の事故や労働災害を未然に防ぐためにはどうすれば良いのかを製造物責任法の規定をベースに説明します。

この法律の定義、言い換えると、技術者が知っておかなければならないキーワードについてみていきましょう。

キーワードは「通常予見される使用形態」と「引き渡した時期」です。

 

平成六年法律第八十五号
製造物責任法

(定義)
第二条 この法律において「製造物」とは、製造又は加工された動産をいう。
2 この法律において「欠陥」とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。
3 この法律において「製造業者等」とは、次のいずれかに該当する者をいう。
一 当該製造物を業として製造、加工又は輸入した者(以下単に「製造業者」という。)
二 自ら当該製造物の製造業者として当該製造物にその氏名、商号、商標その他の表示(以下「氏名等の表示」という。)をした者又は当該製造物にその製造業者と誤認させるような氏名等の表示をした者
三 前号に掲げる者のほか、当該製造物の製造、加工、輸入又は販売に係る形態その他の事情からみて、当該製造物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表示をした者

 

まず、通常予見される使用形態」について説明します。

通常予見される使用形態は、次の2つことを示しています。

1.製造物の合理的に予見(予期)される使用

  • 製品の合理的に予見(予期)される使用とは、製品の「本来の使用形態」と「特性に応じて予見可能な誤使用」です。これら2つの使用(正常使用と誤使用)を、製品の設計や製造時には考慮して対応しなければならない。言い換えれば、予見(予期)可能な誤使用を設計段階で考慮がされていたが否かが、欠陥の判断基準になるということです
  • 欧州機械指令にも、次の記載があります。「製造業者は機械類を設計・製造する場合および機械類の取扱説明書を作成する場合には、機械類の正常な使用方法だけでなく、合理的に予期できる使用についても対応しなければならない・・・・」この規定は、製造業者に予見可能な使用者の誤使用に対して、その誤使用を防止するための設計上の配慮を求めています。
  • さらに、設計上では、リスク低減措置の工学的対策で対応できない予見可能な誤使用に対しては、誤使用を回避するための情報(取扱説明書や警告ラベルなど)などにより、使用者に向けて注意を喚起する責任が製造業者にあります。

2.製造物の使用者による災害回避の可能性

  • 製品の使用者の資格や技能を考えたときに、使用者が事故や労働災害を回避することが合理的に期待できるか否かも判断基準になります。
  • 事故や労働災害は、製品の安全性を高めれば必ず回避できるものではありません。使用者の危険への感覚、経験、知識、身体能力などによっても事故や労働災害の回避能力は異なってきます。このことについて製造業者は、使用者が誰であるのか、製品の危険源にアクセスする可能性があるのは誰なのか、そして、その人が、どのような、険への感覚、経験、知識、身体能力を持つのか、ヒューマン・ファクターを考慮して設計を行わなければなりません。
  • 例えば、警告表示については、使用者が注意を向けるものなのか、その警告表示を見た人が、内容を読み取り、理解し、適切な行動を取るか否を考慮に入れて作成しなければなりません。

 

次に、「当該製造物を引き渡した時期」について説明します。

当該製造物を引き渡した時期は、次のことを示しています。

  • 製品が製造業者から使用者に引き渡された時がいつであったのか?これも製品に欠陥があったかどうかを判断するポイントになります。安全の技術は日々進歩しています。例えば、10年前にユーザーに引き渡された自動車に衝突被害軽減ブレーキ装置による保護方策が実施されていなかったとしても、それは社会通念上から欠陥があるとはみなされないでしょう。しかし、これから10年後の自動車に衝突被害軽減ブレーキ装置が設置されていない自動車を販売したとしたら、それは恐らく欠陥があることになると思われます。使用者に引き渡された時の社会通念がどうだったか、これが「欠陥」の有無を判断するときに考慮されることになります。
  • 一方、製造物責任訴訟において、10年前の社会通念がどうだったか、言い換えれば、10年前に引き渡した製品が、当時の社会が許容するリスクレベルがどうであったか、製品が引き渡された時点の技術的な水準はどうであったか、当時の技術において合理的に安全性を高める方策の有無や実現の可能性、これらの内容を示すことは簡単ではありません。
  • だから、欧州機械指令では、製造業者に対して安全に関する技術資料(テクニカルファイル)を作成し、10年間いつでも提出できる状態にしておくことを規定しているのです。安全設計の原則に従って、設計から廃棄に至るまでのライフサイクルの各段階に対しての安全への取り組みを実施したことの証拠として記録を文書化する。この文書マネージメントを行うことで初めて製造業者は、当該製造物を引き渡した時期のおいて、製品に欠陥は無かったと主張が可能になるのです。

 

<その5に続く>

 

 

MSDコンサルティング