機械安全の法律・規格と設計手法

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7. 製造物責任(PL)法(その7)|(免責事由) 第四条|裁判で「開発危険の抗弁」が認められる可能性は無い

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私は、労働災害を防ぐためには技術者は、 製造物責任を知らなければならないと考えています。法の解釈や法理論を説明するのではなく、PL訴訟のに係わるような製品の事故や労働災害を未然に防ぐためにはどうすれば良いのかを製造物責任法の規定をベースに説明します。

今回は、免責事由についてです。免責事由とは簡単にいうと「製造物責任を免れる原因や理由」です。製造物責任法、免責事由として「開発危険の抗弁」および「部品製造業者の設計支持の抗弁」が定められていますが、裁判で免責事由が認められる可能性は極めて低く、特に、「開発危険の抗弁」が認められた事例を私は聞いたことがありません。

 

平成六年法律第八十五号
製造物責任法

(免責事由)
第四条 前条の場合において、製造業者等は、次の各号に掲げる事項を証明したときは、同条に規定する賠償の責めに任じない。
一 当該製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったこと。
二 当該製造物が他の製造物の部品又は原材料として使用された場合において、その欠陥が専ら当該他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことにより生じ、かつ、その欠陥が生じたことにつき過失がないこと。

 

「開発危険の抗弁」とは 

製造物に欠陥があったとしても、製造物をその製造業者等が引き渡した当時の最新・最高の技術水準(state of the art)に頼ったとしても、製造物にその欠陥があることを認識することができなかったことを証明することができた場合に、製造業者等の責任は問わないという規定です。

事故や労働災害が発生した時に、心配になった製品担当の技術者が、製造物責任法の条文を読んで、「免責事由で責任を免れることができるのではないか、このような事故はこれまで経験したことが無いから」と言って、質問を受けることがあります。しかし、私の答えは決まっています。「私は技術者で弁護士ではないので正確にはわかりませんが、私の知る限り、開発危険の抗弁が認められた、製造物責任訴訟を知りません。ほとんどすべての裁判で認められることのない、開発危険の抗弁が、この事故に限って認められる可能性は極めて低いと思います。それよりもまず、事故の原因を見つけ出し、再発防止と未然防止を行いましょう。そして、もしも、製造物責任訴訟になったときに備えて、弁護士に相談できるように欠陥のない製品を製造するために配慮してきたことを示す証拠技術文書を集めておきましょう。その証拠技術文書は、絶対に破棄したり、加筆や改竄したりしてはいけません、そのままの状態にしておいてください」

 

 

「部品製造業者の設計支持の抗弁」とは

部品の製造業者にも当然、製造物責任があるのですが、その部品の製造業者(下請業者)が納入先の完成品の製造業者からの設計指示・仕様や規格に従って部品を製造しているのみであり、完成品の製造業者が定めた設計指示・仕様や規格の誤りにより部品に欠陥が生じた場合には、部品の製造業者は責任を問われないという規定です。

完成品の製造業者が定めた設計指示・仕様や規格の誤りに対して下請業者に製造物責任を負わせるのは余りに過酷であるので、この規定が作られたのではないかと思います。

 

 <その8に続く>

 

 

MSDコンサルティング