機械安全の法律・規格と設計手法

安全な製品を設計・製造するために必要な法律・規格の情報を紹介しています。

メニュー

機械指令と低電圧指令の判別は?境界はどこ?(その1)|CEマーキング

f:id:msdco:20201219135010p:plain

機械指令(MD)と低電圧指令(LVD)の判別の話をしてみようと思います。

以前のブログで、EU適合宣言をするときは、機械指令 2006/42/ECと低電圧指令2014/35/EUは同時に宣言はできないことの話をしました。

詳しくは ↓ を読んでください。

この時の結論は、

機械指令が該当する場合は、EU適合宣言書には機械指令を記載します。低電圧指令を追加してはいけません。除外規定で低電圧指令を含めてはいけないことになっているからです。

これが結論でした。

 

今回の話は、

機械指令と低電圧指令の判別

重要:製品が機械指令に該当するのか、低電圧指令に該当するのかを判断が難しい場合があります。このブログを読み終わっても確信が持てない場合は、専門家に相談することをお勧めします。なお、主に企業向けに販売する製品で、機械に組み込む必要はなく、そのまま使用できる製品は、低電圧指令である可能性は低いと考えてください。

 

日本の企業はできれば低電圧指令で評価したい

日本から欧州域内に製品を輸出する製造者としては、できれば、低電圧指令で適合性を評価したいのが本音です。理由は次の2つです。

  1. 低電圧指令の場合は、機械指令と違ってEU適合宣言書に、欧州域内に本部を持つ者(コンパイラ)の名称と住所を記載しなくてよい。コンパイラになる企業とテクニカルファイルの扱いについて契約を結ぶ必要がなく、情報漏洩防止や費用の面で日本企業にとって負担が減る。
  2. 低電圧指令は、機械指令と比べて必須要件事項の項目が少ないため、要件の適合性の判定(適合/不適合/対象外)に対する負担が少なくて済む。

 

安易な低電圧指令は、あとで痛い目にあう

しかし、こんな話を聞いたことがあります。
ある電気メーカで製品を、低電圧指令で自己認証を行い欧州への輸出を続けていたところ、ある日、当局から「この製品は、低電圧指令ではなく、機械指令で適合性の評価を行わなくてはならない」との指示が出され、評価のやり直しを行わなくてはならなくなった。評価のやり直しに、かなり費用がかかってしまった。

 

機械指令と低電圧指令の判別は

機械指令と低電圧指令の区分を行うためには、本来は、機械指令、低電圧指令とそのガイダンス、そして整合規格リストとそこに記載されているタイプCの規格の適用範囲をじっくり読み、製品の仕様・特性・構造から判断しなければなりませんが、今回は、あえてわかりやすく、機械指令と低電圧指令の境界を示してみます。

まず、機械指令と低電圧指令で迷うのであれば、当然、その製品は、交流50~1000V、直流75~1500Vの定格電圧(定格入力電圧または定格出力電圧)で使用するものとして考えていきます。

 

低電圧指令の製品の条件

機械指令ではなく低電圧指令と判断してよい製品群は次の3つです。

  1. 製品のカタログ、取扱説明書から判断して、明らかに家庭用(消費者個人用)として使用することを意図した製品(業務用だが家庭でも使用できる製品は、低電圧指令からは外れます)
  2. 機械に組み込むことを目的として市場に出す製品(情報技術機器、低電圧開閉装置、制御装置、電気モータなど)であり、組み込んだ最終製品で改めて、機械指令等の適合性の評価を実施
  3. 製品が該当するタイプCの整合規格が、低電圧指令のリストにはあるが、機械指令のリストに無い(注:タイプBではなく、タイプCの規格です)

なぜ上記の製品群が低電圧指令なのかは、低電圧指令を調べてもわかりません。機械指令と機械指令のガイドを調べなければ理由はわからないのです。

 

理由1

 機械指令 2006/42/ECの第1条(2)(K)には、次の除外規定があります。

2.以下は、この指令の範囲から除外されます。

以下に掲げる範囲に該当する電気製品および電子製品で、特定の電圧範囲内で使用するよう設計された電気機器の加盟国の法令の調和についての1973年2月19日付理事会指令73/23/EEC(現在の低電圧指令2014/35/EU)によってカバーされるもの:

- 家庭用電化製品
- 音響映像機器
- 情報技術機器
- 通常の事務機器
- 低電圧の開閉装置および制御装置
- 電動機(モータ)

つまり、上記のリストにある製品は低電圧指令です。 

 

理由2

機械指令のガイド「Edition 2.2 (update of the 2nd edition) of the guide to application of the Machinery Directive 2006/42/EC 」に第1条(2)(K)の解説があります。

§63低電圧指令の対象となる機械
機械指令の改訂の目的の1つは、法的確実性を高めるため、機械指令と低電圧指令2014/35 / EU28(2016年4月20日から指令2006/95 / ECを置き換える)の範囲の境界を明確にすることでした。

第1条(2)(k)は、機械指令の範囲から除外される低電圧の電気および電子機械のカテゴリをリストしています。

第1条(2)(k)に記載されているカテゴリのいずれにも属さない(他の除外のいずれにも関係しない)電気機械は、機械指令の適用範囲に含まれます。そのような機械が低電圧指令の電圧制限内(50〜1000 Vの交流または75〜1500 Vの直流)の電源を備えている場合、低電圧指令の安全目標を満たしている必要があります。§222を参照してください:付録Iのセクション1.5.1に関するコメント。ただし、その場合、製造業者のEC適合宣言は、低電圧指令に言及してはなりません。

一方、機械に組み込むために独立して市場に出された低電圧電気機器は、低電圧指令の対象となります

 

つまり、第1条(2)(K)に規定していないものは機械指令の範囲になる。一方機械に組み込むために独立して市場に出された低電圧電気機器は、低電圧指令の対象となる

また、家庭用家電製品には、次の解釈が示されています。

§64家庭用家電製品
第1条(2)(K)の最初で言及されている除外に関して、いくつかの説明が必要です。
「家庭用電化製品」という表現は、洗濯、掃除、加熱、冷却、調理などの家事の機能を目的とした機器を指します。
家庭用電化製品の例としては、洗濯機、食器洗い機、掃除機、食品の調理や調理用の機械、およびヘアドライヤー、シェーバーなどの家庭用パーソナルケア用の機械などがあります。一方、電気園芸機械または電動工具家庭での建設および修理作業はこの除外の対象ではなく、機械指令の対象となります。
この除外は、「家庭での使用を意図した」器具、つまり家庭環境で個人(消費者)が使用することを意図した器具に関するものです。したがって、商業的または工業的使用を目的とした上記の掃除機能をもつ機器は、機械指令の範囲から除外されません。 

<以下省略>

そして、

§68低電圧開閉装置および制御装置
第1条(2)(K)の5番目のインデントで言及されている低電圧開閉装置および制御装置は、電気回路および関連する制御装置の電流を開閉するための装置であり、機器を使用して電気エネルギーを制御します。
このような機器は、機械指令自体の対象ではありません。 そのような機器が機械に組み込まれている場合、それは機械が機械指令の付属書Iの関連する本質的な健康と安全の要件を満たすことを可能にする必要があります
この除外は低電圧の電気安全コンポーネントには適用されないことにも注意してください。§42:第2条(c)に関するコメントを参照してください。

 

これらをまとめると

低電圧指令と判断してよい製品群は次の3つになります。

  1. 製品のカタログ、取扱説明書から判断して、明らかに家庭用として使用することを意図した製品であり、動く部分が無い製品(業務用だが家庭でも使用できる製品は、低電圧指令からは外れます)
  2. 機械に組み込むことを目的として市場に出す製品(情報技術機器、低電圧開閉装置、制御装置、電気モータなど)であり、組み込んだ最終製品で改めて、機械指令等の適合性の評価を実施
  3. 製品が該当するタイプCの整合規格が、低電圧指令のリストにはあるが、機械指令のリストに無い(注:タイプBではなく、タイプCの規格です)

 

機械指令と低電圧指令の判別のまとめ 

これを見ると、低電圧指令は、家電製品や電気モータなどの特定製品に特化した、特別な指令であることが見えてきます。

欧州当局の検査官は当然、海外(中国、韓国、日本など)から輸入された製品が、コンパイラが不要、必須要件項目が少ないことが理由で、低電圧指令を選定して適合性評価が行われることがあることを知ったうえでチェックを行っているのです。

主に企業向けに販売する製品で、機械に組み込む必要はなく、そのまま使用できる製品は、低電圧指令である可能性は低いと考えてください。

重要事項をもう一度言います。

製品が機械指令に該当するのか、低電圧指令に該当するのかを判断が難しい場合があります。このブログを読み終わっても確信が持てない場合は、専門家に相談することをお勧めします。
 

 

 

機械指令 2006/42/ECの第1条(2)(K)の規定に基づいて、機械指令と低電圧指令の判別を行ってみましょう。

機械指令 2006/42/ECの第1条(2)(K)には、次の除外規定があります。

以下製品は、低電圧指令に該当します。

 

以下に掲げる範囲に該当する電気製品および電子製品で、特定の電圧範囲内で使用するよう設計された電気機器の加盟国の法令の調和についての1973年2月19日付理事会指令73/23/EEC(現在の低電圧指令2014/35/EU)によってカバーされるもの:
- 家庭用電化製品
- 音響映像機器
- 情報技術機器
- 通常の事務機器
- 低電圧の開閉装置および制御装置
- 電動機(モータ);

 

それぞれ詳しく確認していきましょう。

家庭用電化製品
  • 家庭用電化製品は、洗濯や掃除、調理等の家事機能を意図した製品を意図しています。
  • 「家庭用」とは、消費者個人用の用途であるという意味です。家庭用以外の業務用を意図した電化製品は機械指定が適用されます。(参照:機械指令ガイドの§64)
  • ただし、商店や事務所などの一般消費用やホテルで使用される顧客用の家電製品は家庭用とみなすことができます。(参照:低電圧指令ガイド 付属書III)
  • 家庭用を意図したものであるかどうかの判断は、製品情報(カタログや取扱説明書)や宣言書に記載された用途が考慮されます。(参照:機械指令ガイドの§64)
  • 家庭用であっても、電動工具やガーデニング用の電化製品は、機械指令が適用されます。(参照:機械指令ガイドの§64)
  • 家庭用機器ではない電動ベッドや、電動椅子は機械指令の対象となりますが、それらが医療現場での使用を意図している場合は、医療機器規則が優先されます。

ポイント

家電製品であっても、それらが商業用又は工業用での使用を意図している場合は、低電圧指令には該当しません、あくまで家庭内で消費者が使用する事を意図した製品のみが低電圧指令の対象になります。

音響映像機器
  • 音響映像機器は、ラジオやレコーダ、プロジェクタ等の製品が該当します。
情報技術機器
  • データや情報処理、変換等に用いられる機器が該当し、具体的には、電話や電気通信機器が製品例となります。
  • ただし、プログラマブル電子制御システム(PLC等)の様な機械に組み込まれる事を意図した電子機器は、機械指令が適用されます。(参照:機械指令ガイドの§66)
  • また、情報技術機器であっても、機械の安全構成部品を組み込んでいる様な製品の場合、機械指令の対象となる可能性が高くなります。
 通常の事務機器
  • プリンター、コピー機、ホッチキス等の事務所で使用する事を意図した電気機器に適用されます。
  • ただし、業務用で使用される事を意図した印刷機・紙工機械は、機械指令2006/42/ECの適用範囲となります。(参照:機械指令ガイドの§67)
  • また、家庭、事務所、実験室で使われる3D造形装置や3Dプリンターは、事務所で使われたとしても機械指令の対象になります。(参照:機械指令ガイドの§67)
  • また、事務所で使用される電気機器であっても、電動のリクライニングチェア等の電動式オフィス家具は、機械指令の対象になります。(参照:機械指令ガイドの§67)
低電圧の開閉装置および制御装置 
  • 低電圧開閉装置および制御装置とは、装置が使用する電気の制御の為に電気回路と関連する制御、測定及び調整装置の開閉を行う為の装置を指します。
  • また、機械に組み込まれる場合は、機械指令の付属書I(必須要求事項)に適合しなければなりません。(参照:機械指令ガイドの§68)
電動機(モータ)
  • 電動モーターは、低電圧指令の対象となります。これは、特別な適用条件や駆動システムの無い電動モーター単体に適用されるものです。
  • また、この適用除外は電動発電機にも適用されますが、エンジン等の機械的エネルギー源と発電機から構成される発電機は機械指令の対象となります。
  • なお、ATEX(防爆)指令の適用範囲となるモータは、低電圧指令の適用範囲から外れる為、機械指令の適用が必要になります。

最後に

製品が機械指令に該当するのか、低電圧指令に該当するのかを判断が難しい場合があります。このブログを読み終わっても確信が持てない場合は、専門家に相談することをお勧めします。なお、主に企業向けを意図して販売する製品で、機械に組み込む必要はなく、そのまま使用できる製品は、低電圧指令である可能性は低いと考えてください

  

 

MSDコンサルティング